「君子不器(君子は器にあらず)」。
『論語』に記されたこの言葉の如く、トップアスリートとは単に運動能力に長けた器具ではなく、自らの意志を持って行動し社会を正す存在であることを、世に示しているのは大坂なおみ選手ばかりではない。
萩野選手は東京五輪組織委員会の森喜朗前会長による一連の発言について、音声配信サービスを通じて次のようなメッセージを発信した。
僕は今回の発言を女性蔑視だととらえるし、そういう発言をする思考回路に行き着くことが信じられない。
アスリートの1人として、非常に残念。
森発言をめぐっては、日本が五輪開催国としての適性を世界から疑われかねないほど由々しき事態であったにもかかわらず、国内のアスリート、特に現役のトップアスリートからの発言は、あまり聞こえて来なかった。
それだけ森前会長のスポーツ界への影響力が絶大であるとともに、こうした事態に遭遇した時に良心に照らして行動することを良しとせず、大勢に従って沈黙を守ることを旨とする、厳然たる「常識」が、この国にはいまだ蔓延っているからだ。
にもかかわらず、萩野選手は発言した。
しかも、きわめてクリアに。
その背景には、彼が抱くスポーツへの熱い想いがあった。
スポーツの「価値」について、萩野選手は次のように話している。
いま東京大会がコロナによって揺れ動いているが、アスリートが一番スポーツの価値を考えて行かなくてはいけないと思っている。
ただ速く泳ぐだけ、ただ速く走るだけ、ただ競技がうまいだけでは、スポーツの価値は今後高まって行かないと思う。
アスリートである前に一人の人間であり、何が良いことで何が悪いことなのか、たくさん考えて、そういう話をすることが大事で、以前よりも求められていると思う。
(後略)
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